秋から冬にかけて、カラスは集団となって一つのねぐらを共有します。
この集団ねぐらの近辺では空一面に旋回する様子がみられ
さらに集合場所では大規模な騒音や糞害が発生します。
今回はこのカラスの集団ねぐらを実例を交えてご紹介します。
ねぐらと巣は違うの?
カラスに限らず、ほとんどの鳥にとって巣と寝る場所(ねぐら)は別々です。
例えばカラスは春から夏にかけて繁殖期を迎え、樹木や鉄塔、高層建物など高所に巣作りをしますが、そこはあくまで子育てをする場所。子供が巣立てば巣には戻ってきません。
通常は自分たちのなわばりにある山や雑木林、都市部なら公園、お寺などの樹木をねぐらとし、数羽単位で行動しています。
カラスは秋から冬にかけて集団ねぐらを形成
秋から冬になるとそれぞれの群れが集まりだし、ひとつのねぐらを共有しはじめます。
その多くが住宅地から少し離れた一定規模の雑木林や竹林などで、例えば東京では明治神宮、大阪では万博記念公園が有名な集団ねぐら場所です。
多くは数百羽から数千羽のグループで、大規模なものになると10,000羽を超えるといわれています。
集団ねぐらをつくる理由は?
秋から冬のこの時期にカラスが集団ねぐらの行動をとる理由としては、
①群れることで天敵の襲来をいち早く察知、回避するため
②エサの少ない時期に、エサ場の情報を取得する
(情報交換しているのか、他のカラスの後を追っているだけなのかは不明)
③繁殖期を控えた伴侶探し
などと考えられています。他にも身近な鳥ではムクドリやツバメも大規模な集団ねぐら形成することで有名です。
「就塒前集合」
夕方頃になると電線や建物の屋上、鉄塔などにカラスが群れで集まっているをの見かけます。
これはねぐら(塒)に戻る前に一旦集まる「就塒前集合(しゅうじぜんしゅうごう)」
または「帰塒前集合(きじぜんしゅうごう)」と呼ばれる行動で、ねぐらの安全確認が目的といわれています。
このときの鳴き声や糞害は大規模かつ、日々繰り返されるもの。
ねぐら近辺におけるカラスの害は就塒前集合する場所に集中します。
実例被害と対策報告《横浜某所/マンション屋上》
場所は横浜近郊の緑豊かな新興住宅地。高層マンションが肩を寄せ合うように立ち並んでいます。
夕やみせまる頃、街の空には小さなカラスの集団が散見し始めます。
30分もしない間にその数はますます膨れ上がり、上空は黒い集団が渦巻き、鳴き声と羽ばたきでスリラー映画のような異様な光景へと様変わり。
しばらく旋回を繰り返したあと、前もって決められていたかのように、集団は分散してそれぞれのマンションに舞い降り、瞬く間に笠木やアンテナなどはカラスで隙間なくうめられていきます。
しばらくは動かず静寂を保っていますが、ねぐら入りの時刻が到来すると全てのカラスは沸き立つように上空に舞い上がり、旋回しながらひとつの大集団を形成し、一直線にねぐらを目指します。
街のすぐ側には樹木で覆われた小高い丘があり、そこがカラスの集団ねぐらだったのです。
被害
この待機場所となっているマンションの糞害は想像を超えたものでした。
笠木部はペンキを塗ったように白濁し、床面までもが落下糞で白い花が弾けたような模様になって点在しています。
対策
防鳥ワイヤーを笠木や給水施設などに設置することで、このマンションに待機場所として近寄らせない一定の効果を得ました。
しかし、その反動で近くの建物や電線・構造物などが新たな待機場所となったのです。
その意味では根本的な解決には至っておりません。
なかには集団ねぐらの木々を伐採すれば、という声もあると聞きますが、自由に空を飛べるカラスにとっては新たな集団ねぐらを他所に探し求めるだけです。
ただカラスの個体数が減少すれば、被害の程度や件数も減ることは確実です。
駆除などで減らす取り組みもありますが、日本野鳥の会も提唱しているように、エサの量を減らしていくことでの自然減少が望ましいと考えます。
野生動物は食べ物の量に比例してその個体数が増減するものです。
そして都市部のカラスは人の生ごみや食べ残しなどの比率がとても多いとされます。
ゴミの減量や、ゴミステーションへの出し方、公共のゴミ箱管理を徹底して、カラスにゴミを食べられないようにすれば、自然とその数は減っていくのです。
実際、多くのゴミステーションで生ごみの管理が向上したこともあり、一時に比べてカラスの個体数は大きく減少しました。
個体数の管理には時間も掛かり、被害の完全なる解決にはなりません。
いっぽうで虫などを食べてくれる益鳥としての役割もありますが、人と鳥が共生していく上で重要な要素であることでしょう。
カラスの生態や習性を熟知してもねぐらを奪うことや
待機場所を無くすこと、集団行動を止めさせることは不可能です。
あらためて鳥や動物との共存の難しさを思い知らされた一例です。